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1通の問い合わせメールから始まった。
佐久間発電所の大規模更新を支える社員寮ができるまで。

2026年、電源開発株式会社(以下、J-POWER)様が運営する佐久間ダム・佐久間発電所は、運転開始から70周年を迎えた。同年7月、発電所の設備を約10年がかりで全面更新する大規模工事「NEXUS佐久間プロジェクト」がスタート。

その「一丁目一番地」として、工事に先立つ2026年3月、浜松市天竜区佐久間町に完成したのが社員寮「竜神寮」だ。プロジェクトに従事する社員様の暮らしの拠点となる建物を、私たちキーストンが設計・施工した。

J-POWER様のご担当者お二人と、当社の常務・小鹿、営業担当の生田。プロジェクトを間近で動かした4人で、竜神寮ができるまでを振り返る。

竜神寮

構造・階数 鉄筋コンクリート造(RC 造)3 階建て・全 24 室
延床面積 938.85 m2
住所 浜松市天竜区佐久間町
竣工 2026年3月
竜神寮

第1章 出会い
── 1通の問い合わせメールから

──そもそも、なぜ新しい社員寮が必要になったのでしょうか。

お客さま

J-POWER様

佐久間発電所を2026年から約10年かけて全面的に作り変えていく「NEXUS佐久間プロジェクト」がいよいよ始まりました。
工事に従事する社員が、一時的とはいえかなり増えることになります。発電所を維持する社員のための住まいはすでにあるのですが、新たなメンバーを受け入れるための用意がない。そこで佐久間町内に追加の寮を建てる必要がありました。
プロジェクトは10年間ですが、その後も発電所はずっと続いていきますから、この先も佐久間の地に社員が住むことは確実です。工事期間だけでなくその先も見据えて、長年使える寮を建てようという話になり、土地から取得しました。

──施工会社は、どうやって探されたのですか。

お客さま

J-POWER様

浜松市内の会社も、全国規模の大手メーカーも含めて、何社かにお声掛けをしました。キーワードで検索したり、各社のホームページを調べたりして、すべて問い合わせフォームから、一律同じ内容でご相談したんです。
キーストンさんのことを知ったのは、不動産会社さんから「浜松市内にはこういう会社もありますよ」と教えていただいたのがきっかけでした。

──全国規模の大手も選択肢にあった中で当社を選ばれたのには、「地元の企業がいい」というお気持ちもあったのでしょうか。

お客さま

J-POWER様

もちろんありました。私たちJ-POWERは全国各地で発電事業を行っている会社ですが、今回のような大きなプロジェクトをやるにあたっては、ぜひ地元企業の皆さんにも加わっていただき、一緒に仕事をしていきたいという思いがありました。
それに、私たちには人事異動がありますが、寮自体はずっとここにあり、さまざまな社員が住み続けます。だとすれば、同じ浜松市内にある会社のほうが、竣工後も相談しやすいですよね。
長いお付き合いを踏まえた上でも、「地元企業にお願いできたら」という考えはありました。

インタビューに答えるJ-POWER様

──依頼にあたっての条件はあったのでしょうか。

お客さま

J-POWER様

各社にお声掛けしたのが2025年の年明け、1月から2月にかけてです。プロジェクトが動き出して佐久間に住む社員が増えるのが2026年の春。ですから「2026年3月末までに完成させてほしい」というのが大きな条件でした。正直、無理を言った条件です。

「もっと工期があれば」「2025年度の工事はすでに埋まっていて、人員が足りない」といったお答えの会社さんも複数ある中で、最終的にご提案をいただけたのは、大手の会社さん数社と、浜松市内ではキーストンさんだけでした。

──小鹿常務は、このお問い合わせを受けてどう感じましたか。

小鹿

小鹿

「佐久間で社員寮か、面白そう。とりあえず行ってみようか」という感じです(笑)。
まずはお話を聞きに実際に佐久間に伺いました。

お客さま

J-POWER様

その「すぐ来ていただいた」というのも、実は大きかったですね。電話でのやり取りが続く会社さんが多い中、できるかできないかはさておき、まず直接話を聞きに来てくれた。あのフットワークの軽さは、地域に根付いた会社さんならではだと思いますし、決め手のひとつになりました。

──厳しいスケジュールを聞いて、率直な感想は?

小鹿

小鹿

それはもう、やるしかないでしょう!

生田

生田

帰りの車の中で、「ぜひやりたいですね」という話をずっとしていたのを覚えています。浜松市内で行われるこれほど大きなプロジェクトに携われる機会は、そうあるものではないですから。

──最終的に、キーストンにご依頼いただいた決め手は何だったのでしょうか。

お客さま

J-POWER様

大手メーカーさんのご提案は、最新の設備や家電など、求めるものに対してオーバースペックなものが多かったんです。社員寮ですから、もちろん快適さは重要ですが、それを超えた華美なものを作るつもりはありませんでした。
キーストンさんは、こちらのそうした正直な思いも汲み取った上で、本当に必要なものをご提案くださったんです。それでいて、構造は一番しっかりしている。そして浜松の会社さん。この「構造・コスト・地元企業」という3点セットが、決め手になりました。長い目で見て本当に良い提案をしていただいたと思っています。

対談中の小鹿常務と生田
COLUMN 01

佐久間ダム・佐久間発電所を知っていますか?戦後日本を支えて70年

佐久間ダム・発電所が完成したのは1956年。
完成当時、その発電量は東京電力の総出力の14%、中部電力の23%に相当し、深刻な電力不足にあえいでいた戦後日本を救った。険しい山峡での難工事をわずか3年ほどで完成させたこの事業は「戦後日本の土木技術史の原点」と呼ばれ、当時は全国にその名を知られた国家的プロジェクトだった。

一方で、この大工事では96名もの尊い命が失われた。佐久間町の伝統芸能「竜神の舞」は、殉職した方々の霊を慰め、地域の繁栄を祈念するために生まれた舞だ。いまも町の人々に大切に受け継がれるこの舞は、2025年10月、東京・東銀座のJ-POWER本社前の広場でも披露された。

佐久間発電所の年間発電量は約14億kWhもあり一般水力では国内トップ。一般家庭約35万世帯分に相当し、およそ36万世帯を擁する浜松市のほぼ全域をまかなえる規模だ。しかも東日本の50Hz・西日本の60Hzの両方に向けて発電できる珍しい機能を持つ、全国でも貴重な水力発電所である。

佐久間ダム

第2章 提案
── 「豪速球には豪速球で」

──設計にあたって、どんなご要望があったのでしょうか。

お客さま

J-POWER様

ここは浜松の中でも山間部で、夏は暑く冬は寒い。その環境に対応できる建物を建ててほしい、というのは最初にお伝えしました。それから、住まいとしての快適さです。発電所の工事は夜遅くまでかかることもありますし、山間部での単身赴任で、初めて地方で生活するという社員も多い。だからこそ、家に帰れば広くて快適で、構造がしっかりした安全な部屋がある、という安心感を大事にしたかったんです。何よりも「落ち着いて住める場所」を意識していました。

──それを受けて、どのような提案を組み立てましたか。

生田

生田

寒暖差の激しい佐久間の気候に対応すること、そして「2026年3月末まで」という工期を守ること。この2点が私たちにとって一番大きなミッションでした。社内で細かく期限を設定し、最初のお打ち合わせから約1ヶ月の間に、パースのご提案、見積もりまでを急ピッチで進めました。

お客さま

J-POWER様

そのスピード感には、何より驚きましたね。たしか初回訪問の翌々週には、もうファーストプランが出てきましたから。豪速球には、こちらも豪速球で返さないといけません(笑)。私たちも社内の判断を急ぎました。

小鹿

小鹿

どんなに一生懸命やっても、1カ月かかる工事が2日で終わる、なんてことは絶対にない。だとすればマンパワーで縮められるのは、着工前の段階しかありません。J-POWER様にも「いつまでにお返事をください」ということは、率直にお伝えしていましたね。

スピード感について話す小鹿常務

──もうひとつのミッション、寒暖差にはどう応えたのでしょう。

小鹿

小鹿

そもそもRC造(鉄筋コンクリート造)は断熱性と気密性が高く、寒暖差の大きい土地に向いているんです。ただ、ガラス面からは熱が逃げるので、窓はペアガラスにする。構造そのものを寒暖差への答えにしました。

お客さま

J-POWER様

最初にRC造と聞いたときは驚きました。この短い工期で、RCで本当にできるのかなと。ご提案いただいた各社の中でRC造はキーストンさんだけで、ほかはすべて鉄骨、あるいは木造だったんです。

──調整を経たプランの印象は、いかがでしたか。

お客さま

J-POWER様

そんなに大きくない敷地の中で、「24部屋を確保してほしい」という要望も、必要な駐車場の台数も、すべて満たされていて、率直に「これ、いいね」と感じました。高い建物のないこの地域で威圧感が出ないよう3階建てにしていただいたのですが、おかげで隣の民家に影がかかることもなく、ちょうどいい規模に収まっています。全室南向きで、間取りは左右対称な2パターンだけなので、部屋による差もほとんどない。とても満足度の高いご提案でした。

提案に満足だったと笑顔で話すJ-POWER様

第3章 施工
── お客様と一緒に作る

──2025年の夏に着工してから、印象に残っていることは?

お客さま

J-POWER様

実は、着工早々、基礎を入れる場所に大きな岩盤が見つかったんです。暑い盛りの7月・8月に急ピッチでどかしていただくなど、その時は本当にご苦労をおかけしました。私も極力、毎日現場に伺わせていただき、キーストンさんと対話を重ね、近隣のご家庭にもご理解をいただきながら、ピンチを一緒に乗り越えてきました。
建物を作る仕事には今まで全く関わったことがなかったので、一つひとつの工程を間近で見せていただいて、個人的にも本当に勉強になりましたね。

小鹿

小鹿

当社の物件づくりは、営業も設計も現場も「お客様と一緒に作る」という感覚が強いんです。うちだけが頑張っているのではなく、お客様と一緒に作らせていただいている。J-POWER様はダム・発電所を管理されている会社なので、毎日どなたかが現場にいらっしゃって、報告を受けてすぐ判断できる体制が会社として成り立っている。そのためか、工事中も常に密にご相談できる環境があり、とても助けられました。RCの物件づくりで、これだけ近い距離で毎日相談できる環境はなかなかありません。

物件づくりについて話す小鹿

第4章 完成
── 佐久間でいちばん新しい風景

──そして2026年3月、竣工を迎えます。

お客さま

J-POWER様

最初にお願いした「3月末までに」というお約束をすべて守っていただいて、しかも無事故無災害。何のトラブルもなくここまでのものを作り上げていただいて、感謝しかありません。建物の全貌を観たときには、「本当にできたなあ」と嬉しかったですね。

──外観でひときわ目を引くのが、1階外廊下の木目調ルーバー(格子)です。これはどんな経緯で生まれたのですか。

お客さま

J-POWER様

発端はセキュリティです。エントランスはオートロックですが、女性社員が入居する可能性を考えても、外廊下部分に格子をつけたくて。「何かいいものはないですか」と相談したところ、「意匠的にもルーバーがいいのでは」とご提案いただいたんです。

小鹿

小鹿

格子があることで、住んでいる人に閉塞感を与えてしまうことは避けたくて、今回はルーバーをご提案しました。ルーバーは断面が四角なので、見る角度によって、視線が通ったり遮られたりする。閉塞感を出さずに目隠しの役割を果たせるんです。

お客さま

J-POWER様

素材を木目調にしたのもポイントです。自然豊かな環境に、アルミなどの無機質な質感のものを取り入れると景観を乱してしまうので、周囲に違和感のない、落ち着いた木目調にしました。入居して3カ月経ちますが、未だに「いい外観だなあ」としみじみ思います。夜のライトアップもすごくおしゃれで、帰ってくるたびにちょっと気分が上がるんです。

竜神寮の夜の外観
小鹿

小鹿

当社は年間を通じて継続的にRC物件を作っているので、「過去にこのタイルを使ったら評判が良かった」「サンプルを取り寄せたらイメージと違ったのでやめた」という取捨選択の積み重ねがあるんです。ルーバーをはじめ、外壁や内装も、過去の経験値から、選んで良かったものの集大成で作っています。トライアンドエラーの蓄積です。

──住み心地はいかがですか。

お客さま

J-POWER様

とても静かです。周りに人が住んでいるのに、生活音が気になることがありません。社員寮は隣に上司や先輩が住んでいるかもしれない場所ですから、音がしないのは本当に大事なんです。広さも十分。
従来の当社の寮は食堂や大浴場がつく代わりに、個室は狭かったり、場所によってはシャワーブースとトイレだけ、というところもあります。ここはお風呂も洗面所もトイレも独立していて、収納は押し入れではなくウォークインクローゼット。これが本当に良くて、引っ越すならもう絶対にウォークインクローゼット付きがいいです(笑)。お風呂も気に入っています。前に住んでいたところは、両肩がつくくらい小さな浴槽だったんです。今はのびのびと足を伸ばせて、とても癒やされています。

第5章 これから
── まちづくりのkeystone

──そして2026年3月、竣工を迎えます。

お客さま

J-POWER様

佐久間発電所ができた70年前、この町には2万5千人近い人がいて、非常に賑わっていたと聞いています。佐久間ダムと発電所は、当時、全国的に有名になった場所なんです。
それがいまは、2千人ほどの山あいの地域になりました。だからこそ、このプロジェクトを機に、もう一度佐久間に注目していただきたい。電気の安定供給という観点で非常に重要な拠点がこの佐久間にあるということを、ぜひ知っていただき、足を運んでいただく機会にしたいんです。そして、プロジェクトが終わったその先も地域を盛り上げていけるように、いま地域の皆さんと対話を重ねているところです。

10年におよぶNEXUS佐久間プロジェクトは、まだ始まったばかりだ。
竜神寮はその入り口に立つ、小さくとも確かな第一歩。
天竜の山あいで、今日も働く皆さまの暮らしを支えている。

COLUMN 02

NEXUS佐久間プロジェクト

天竜川の水をたたえる佐久間ダムと佐久間発電所は、2026年で運転開始70周年を迎えた。70年働き続けた設備を更新するのが「NEXUS佐久間プロジェクト」。4台ある発電機を2台ずつ2期に分けて全面更新し、発電所の建屋もすべて作り替える。第1期は2026年から、第2期は2031年頃から。完了は2035年度の予定だ。

本格着工は2026年7月──くしくも、この取材が行われたまさにその週のことだった。地元・浜松では、運転開始70周年とプロジェクトの始動を記念したJ-POWERのラッピング電車が遠州鉄道で運行されるなど、地域を盛り上げる取り組みも始まっている。

プロジェクトの第一歩として建てられた「竜神寮」の名前は、天竜川の「竜」と、「竜神の舞」に由来する。ダムとともに歩んできた土地の記憶と、地域の未来への祈り。竜神寮は、その名前ごと佐久間の物語を受け継いでいる。

佐久間ダムの資料館

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